
じゅうぶんな引き継ぎ期間もないまま、突然、図書室担当を命じられたら、どうしますか。
ウェブサイトで「図書館 マニュアル」と検索してみると、いくつもヒットします。開いてみると、「図書館とは」「利用者の定義」「資料の組織化」、こういったことは当然重要なのでしょうが、いますぐ必要なことはどこに書いてあるのか、分からないかもしれません。
また、たった一人で図書室を任されているスタッフが、前触れなく長期間離脱したらどうなるでしょう。本や雑誌は封も解かれず山積みのまま、返却処理されない資料がいつまでも貸出中、そんな事態に陥ったらたいへんです。
図書室の業務マニュアルは、組織にとってもそこで働くスタッフにとっても、図書室を安定して運営するために、必須のツールです。どのように作成すればよいのでしょうか。
必要な作業を書き出す
担当者の不在対策
まずは、スタッフが一人だけの図書室で担当者が短期間の休暇を取得すると仮定して、「ほぼ毎日やらなければいけないこと」を考えてみます。
- 日刊の資料(新聞や官報等)を購読している場合は、届いたらどこに置くのか
- 返却本はどのくらいの頻度で回収・返却処理・書架へ戻す作業が必要なのか
- 購入した本や雑誌が届いたら、最低限何をすれば良いのか
等々を、できるだけ具体的に書き出します。突然「お留守番」を任された人向けの緊急マニュアルとして、「毎日やっていること」だけを整理します。
通常の業務
その次には、日常的に行っている作業の流れを整理します。
- 書籍……△日ごとに新刊情報を収集→選書用の資料作成→選書→発注/支払手配→データ作成・装備(ラベル貼り等)→排架→貸出状況の把握→廃棄の検討
- 雑誌……データ作成・装備→排架→保存期限の確認(製本または廃棄)→発注先の管理(書店購入の場合は支払手配、出版社から定期購読の場合は継続か解約の判断)
- 貸出/返却……返却処理や書架の整備(分類順に正しく並んでいるかどうかのチェック)、また延滞資料の督促は、どのようにどのくらいの頻度(返却の都度か定時の作業か)で行うか
- 電子書籍やデータベース……利用者アカウントの管理、バージョンアップやメンテナンス情報の周知、利用状況の把握、契約と支払(「形がないから便利?厄介?-電子ジャーナルやデータベースの取り扱い」)
- 備品の手配……蔵書ラベルやバーコードなど、図書室でのみ必要とされる備品の残量確認と発注
整理ができたら、それぞれの作業について、さらに具体的に書き出します。
- 資料のデータ入力……①蔵書検索②旧版やシリーズものの所蔵があればそのデータを利用して修正(サブタイトルや著者名表記等のズレが生じないよう注意)③雑誌は前号との間に欠号がないか確認
- 雑誌……データ作成・装備→排架→保存期限の確認(製本または廃棄)→発注先の管理(書店購入の場合は支払手配、出版社から定期購読の場合は継続か解約の判断)
- 装備……バーコードは背表紙を左にした状態で、右側と下側を2cmほど開けた位置に貼る(「本とバーコード」)ラベルは背表紙の下10mmを空けて貼る
- 排架……棚一段につき8割程度を理想とし、指1本も入らなくなった場合、無理に押し込まず、可能なら次の段に送って調整するか、不必要と思われる資料を抜き出して廃棄(「職員が選ぶ本の購入と破棄の方法」)を検討する。しおりひものついた資料は、本から飛び出さないよう、ひもの先を本のページの中へ入れてから棚へ戻す(摩擦によって切れてしまうため)
日常の作業をひとつひとつ思い出しながら、注意点を含めて、ていねいに言語化します。特に装備については、「だいたいこのあたりに貼る」ではなく数字できちんと整理し、可能なら図版(実際の写真等)も入れられれば、誰にでもわかりやすくなります。
時期・季節によって必要な業務
以下のような業務は、一年中行うわけではないので、作業内容だけでなく、いつごろ何に着手すれば良いのかの把握が大切です。直前になって「間に合わない!」と焦ることのないよう、スケジュールを明記しておきましょう。
- 新入社員へのガイダンス……対象人数の確認はいつまでに?他の研修日程との調整等
- 蔵書点検……図書室の閉鎖するかどうか、周知の期間、図書システム担当者との連携等(「図書室の棚卸し―蔵書点検」)
- 予算作成……予算の執行状況をどのくらいの頻度で確認すべきか、書籍・雑誌・データベース等の価格変動状況調査、予算申請のリミット(時期)等
具体的なイメージと補足資料の作成
ふたたびウェブサイトで「良い業務マニュアルの作り方」を検索してみると、もう読み切れないほどいろいろなアドバイスが出てきます。「5W1Hを意識」「フォントを統一」「余白をとること」「図や写真は有効」「目次・見出しは必須」等々、利用するツールはWordが良いのか、Excelなのか、PowerPointなのか、マニュアル作成専用のシステムや無料のテンプレートをおすすめされたり、かえってわけが分からなくなってしまいそうです。
こういった作業が「得意ではない」と尻込みしてしまう場合には、自分が「読みやすい」と感じる文書の書体やレイアウトをそっくり真似してしまうことをおすすめします。同じ組織内の、別の部署のマニュアルをひな型にアレンジしても良いでしょう。利用するツールも、日常的に使い慣れているもので十分です。業務マニュアルは定期的に見直し・更新することも大切ですので、修正・加工に特別なスキルが要求されるツールは不向きだからです。マニュアル作成前に「何を載せれば良いか」をよく検討するのは大切ですが、どんな体裁にするのかは、負担に感じない、できる範囲で進めましょう。
業務の流れを整理・説明するマニュアル以外に、盛り込みたい内容によって、別のツールで業務の補足資料を用意しておくことも有用です。マニュアル本体はWordで作成する場合も
- 図書システムやデータベースに不調が起きた緊急時の連絡先やよくある要望(「新刊を購入してほしい」等)やトラブル(資料の紛失、長期延滞者への対応等)の対処方法
- 図書室以外では耳慣れない用語(ISBN、逐次刊行物、件名等)の解説
こういった事柄はExcelで一覧表になっていた方が探しやすく見やすいですし、追加や加工が容易です。
ほか、短期間のピンチヒッターを依頼する時の簡易マニュアルは、PowerPointで2~3ページ程度にまとめておけば、受け取った方の負担感が軽くなるかもしれません。
いずれの資料も、実際に利用した人からできるだけ「分かりにくい箇所」「説明が足りない部分」等をヒアリングすれば、改善に役立ちます。 ある程度内容が固まったらそう頻繁に更新する必要はありませんが、少なくとも一年に一度くらいは業務マニュアルを見返し、現状にそぐわない部分はないか、不必要な作業を行ってはいないか、等を検討しましょう。
日々の作業を洗い出す、再考する機会
マニュアルに何をどのように載せるのかを考える際には、なんのためにその作業が必要なのか、問い直してみてください。
・背ラベルを「なぜ同じ位置に貼らなければならないのか」
→均一の位置に貼ることで見た目がすっきりとし、探しやすい。ただし、著者名や書名が隠れないよう気を付ける。ラベルの文字は太めにはっきりと記す。
・蔵書印は「何の役に立つのか」
→私物の書籍に紛れたときに発見しやすいよう、天(本の上部)と小口(背の反対、ページを開く側)に押す。
・分類記号は「どうして付与しなくてはいけないのか」
→同一主題の資料はできるだけ近い場所に置いて見つけやすくするため。帯や目次、あとがきなどから情報を収集したら、蔵書検索で同じテーマの資料を確認し、ふさわしい分類番号を考える。複数の主題を取り扱っている場合には「検索される可能性が高い言葉」や「需要が多そうな分野」等を利用状況から確認する。
・利用者からの質問や問い合わせは「なぜ記録しておいた方がよいか」
→どのようにどんなツールを調べたのかを記録することが、別の質問があったときに役立つため。非常によくある質問(「住宅地図とブルーマップはどう違うのですか、見方が分りません」等)については、記録に残しておけば誰でも回答できる。守秘事項の問題がなければ、利用者のよく目につくところに置くのも有効。
・利用統計は「なぜ作成しなければならないのか」
→どの分野の資料がよく使われているか、最近貸出が伸びている分野はどこか等は、限られた資料購入費用を有効に活用するために必須。データベースや電子書籍も同様で、どのくらい利用されているかを把握せずに次年度の契約に臨んではならない。
共通するのは、どの作業も「利用者が資料を探しやすくする」助けとなっているかどうか、です。必要のない作業を「前任者に言われたから」と続けてはいないか、お金がないから、人手がいないから、とリニューアルすべきことを後回しにしていないか。ひとつひとつの作業の目的を自分の中で明確にすることで、改善点が見えてくるかもしれません。
業務マニュアルを作成する目的のひとつは「誰が作業しても同じ成果を出すため」です。もしいま自分は出来ていても、後任が同じレベルで図書室を運営できるかどうか、「その人の熱意次第」では失格なので、「見れば何をしたらよいかが分かる」ようにするために業務マニュアルは必要です。ただそれだけでなく、たとえばしおりひもを本の中に戻すような、単純そうに見える作業ひとつひとつが利用者の利便性のためであること、日々の仕事の意味を伝える努力を、マニュアルに注ぎ込みましょう。
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図書室の仕事は、資料と利用者をつなぐこと。
LXは、その役割を無理なく続けるための「道具」です。
いまの運営に、どんな支えが必要か、一緒に考えてみませんか。

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