図書室に必要な書籍をどのように選択するのかは、担当者の苦心と腕の見せどころです。 ただし、年間7万冊を超える国内の新刊全てに目を通すことはできません。 また、スペースが限られてる場合、購入した分だけ廃棄も必要です。 書籍の購入/廃棄を効率よく行えるかどうかは、図書室の利用向上につながる重要なポイントになります。
選書は誰が、どのように
図書館・図書室のタイプによって、選書の方法はさまざまです。
まず各部署から選書担当者を選出して選書委員会を組織し、定期的に検討する、といった方法があります。システムとしては公平で望ましいですが、決定までに相応の時間がかかり(新刊の受け入れも遅れる)、各委員に資料を用意し、全員の日程を合わせて会議を設定する作業量等、担当者の手間もかかります。
小規模な図書室では「担当者におまかせ」、またはそれに等しい状況(担当者がほぼ選定し、上席者はチェックのみ)が多いかもしれません。関わる人数が少ないほど購入までの時間は短縮されますが、情報の収集はその人の熱意とやる気任せとなり、もし担当者のスキルが低ければ、必要な資料を見逃す可能性もあります。
市町村の公共図書館や学校図書館向けには、関連する団体や図書館向けの書籍流通会社、大型書店などから多くの新刊情報が提供されており、図書館によっては「見計らい」というシステムで、届けられた現物を確認しながら選書を行うこともあります。ただし、企業や法律事務所内の図書室でここまでするのは難しいですし、専門分野の分野の情報だけに絞って収集するためには、新刊を網羅的に掲載する大型の書籍目録では煩雑すぎることもあります。
方針を定める「選書基準」
選書基準を作成するのは、なんだか難しそうです。組織内の文書規程として定めるには、煩雑な手続きが必要かもしれません。ただ初めは手探りでも、また、組織内で公のものとしなくても、ある程度のラインを定めることは、その後の選書作業に役立ちます。
たとえば、
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対象とする分野
収集範囲(たとえば建築関係の場合、建築の構造等工学的なものだけが必要なのか、それとも制度や法規、都市計画といったテーマまで含めるのかどうか)
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優先順位
- 常に新しい書籍を優先するか、それとも基礎的な資料の充実を図るのか
- 学術的な内容を重視するか、実務に役立つことが第一か
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複本
利用が多い書籍は複数購入が望ましいか
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価格
高額の場合、組織内の決済は必要か
といった条件を、それぞれ書き出していきます。
もちろん、全てが基準通りに片付くものではなく、AIや自動運転など、既存の分野には収まらない話題を追いかける必要が出てきたり、またそのような場合、理論と実務のどちらか一方だけの情報で事足りるわけでもありません。時には、数十万円の書籍を購入するために費用を捻出することも必要になります。基本的な資料はすでに揃えていたつもりでも、利用者に思わぬ不備を指摘されるかもしれません。
それでも条件を文章化していくことで「なんでもあり」の状態からは脱しますので、自分の中に大量の新刊情報を取捨選択するラインができてきます。選書方針は「誰のために」「どんな資料を提供するか」という図書室の基本の目的に関わるものです。最初は簡単でも良いので、気が付いたことを順次書き足していくことをお勧めします。
新刊情報を収集するーその1 基本の情報源
一般的に新刊の情報源として以下があります。
- 新聞・雑誌の新刊広告
- 出版社や書店のウェブサイト、メールマガジン、新刊カタログ
効率よく情報を収集するために
情報媒体をただ眺めているだけではそれだけで一日が終わってしまうので、自分でルールを決めるとよいでしょう。- 朝いちばん、また週1回〇時間、など集中する時間を設定
- 「ここだけは見逃さない」(図書室の専門分野に特化した雑誌、書店や出版社にターゲットを絞る)
また、税制改正の関連書籍は毎年春先にまとまって刊行されますので、時期に応じて注目分野を自分なりに設定しておくことも手助けとなります。
新刊情報を収集するーその2 自分だけの情報源
新刊情報のなかで「見逃してはならないポイント」が把握できていれば、格段に効率が上がります。
そのために役立つのは、まず第一に貸出情報でしょう。図書管理システムを活用すれば、利用の多い資料や分野がはっきり表れるからです。「貸出ランキング上位の本の改訂時期」「最近人気の分野や著者の新刊」等、何を確認すべきかが明確になります。また、数値には表れない情報も非常に重要です。書架や返却書籍の様子(よく利用されている棚ほど貸出が多くてガラガラだったり、利用後は乱雑だったりする)を観察すること、利用者からの問い合わせや会話(「この分野の資料はないですか」「〇〇の著作はほかに何かありますか」)から需要を読み取ることは、必要とされている資料を揃えるために欠かせない作業です。
流通ルートに乗らない資料の収集
国や地方自治体、大学、研究所等の研究報告書、調査書、統計等を、「灰色文献」と呼ぶことがあります。
特に専門的な分野を扱う図書室では、こういった非流通資料を要求されることも少なくありません。見逃さないためには、官公庁等のウェブサイトやメールマガジンを常にチェックすることになりますが、出版社の情報と同じく、全てを確認するには相当な労力を要します。やはり情報収集先は絞らなければなりませんが、そのためにも利用者の需要を把握することが大切です。と、ここまで手を尽くしても「見逃した!」と頭を抱える事態に陥るかもしれません。利用者から「必要な資料なのになぜ(図書室に)ないのか」という指摘を受けた時には、可能な限り迅速に対応して「図書室はなんとかしてくれる」という印象を与えたいものです。
廃棄の悩み
ほとんどの図書室は、スペースに限りがあります。新しい資料が入ってくれば、それだけ処分しなければなりません。また、書架の見た目から「なんだか古い本ばかりだな」という印象を与えると、利用者を遠ざける原因にもなります。廃棄はどのように進めれば良いのでしょうか。
捨てないで外部に保管する
書籍・雑誌等を外部に保管するサービスは多数あります。資料の利用より保存を重視する図書室の場合は、こういったサービスが有用でしょう。ただし、いますぐ見たい急な利用に対応できない(取り寄せの所要時間はサービスによって異なります)、保管だけでなく出し入れの都度費用が発生する、といった問題もあります。
廃棄基準を作成する
何もない手探り状態で破棄するのは難しいですね。選書基準と同様に廃棄ガイドラインを策定します。
- 貸出回数△回以下
- 刊行から〇年以上
- 改訂されている(旧版)
- 同一書籍を複数所蔵している(1冊のみ残す)
同じ年に刊行された書籍でも、時代が変わって実務には役立たないものもあれば、いまでも多くの文献に引用される基本的な資料もあります。こちらも選書の基準と同じく、図書室の目的(誰に対してどのような資料を提供するか)に沿っているかどうか、慎重に検討することが必要です。また、ウェブ検索すると公共図書館や学校図書館の事例(廃棄基準)は多数ヒットし、廃棄基準の参考になります。
LXの便利な機能
図書管理システムLXでは書籍の管理をサポートする機能が携わっています。
統計業務の「図書貸し出し回数一覧」からどの本が何回借りられているかを調べることが可能です。
そのほか破棄の際に役立つ資料の作成機能を兼ね揃えております。
集中的に廃棄する書架を設定する
スペースに余裕がない場合、全体的ではなく、資料の増加が著しい書架や、逆に利用が非常に少ない書架に的を絞って廃棄を進める方法もあります。
最新刊が多数刊行される分野は過去の情報の利用価値が低下しているかもしれませんし、利用が少ない分野については、廃棄とともに収集も停止すれば、購入費用がそれだけ有効に活用できます。判断に迷う場合には、図書管理システムの履歴からその分野に詳しそうな利用者を抽出し、直接ご意見をお伺いしても良いかもしれません。なぜ必要なのか、そしてどうしても残してほしいものはなにかを知ることは、より適正な蔵書構成につながるでしょう。いずれにせよ手間はかかりますが、廃棄は必須の作業であり、公正な基準に沿って行っていることをご利用者にご納得いただくことが大切です。
廃棄の実際
より慎重に進める場合は、ある程度の期間廃棄候補資料を箱詰め等してまとめておき、利用希望者があれば廃棄から外す、といった方法も考えられます。
書籍や雑誌は古紙(資源ゴミ)として処分することが多いようです。金銭が発生することに問題がなければ、古書店や買取サービスに査定を依頼することもできます。図書室の資料は、蔵書印が押してあったりラベルが貼ってある等の理由で値段が付かないことも多いですが、内容によっては買い取ってもらえます。その際、ISBNデータを提供すると査定が早いようです。
ほかにも、こちらも状態や内容次第になりますが、古本の寄付を募っているNPO・NGO等は多数ありますので、探してみるのはいかがでしょうか。
寄贈本は捨てられない?
外部の関係者や利用者から寄贈されたさまざまな資料はついては、内容が古くなったり、改訂版が刊行されたりしても、なかなか捨てにくいものではないでしょうか。保存を目的とする場合は別ですが、こういった資料についても、時を経ればやはり廃棄が必要になります。寄贈の申し出があった際には、受け入れ前に、図書室の資料は全て定期的に基準に沿って廃棄していることをあらじめ御説明しておくことをおすすめします。それをご納得いただいたうえでの寄贈なら、お互いにわだかまりなく廃棄作業も進められます。選書と廃棄はまったく逆の作業ですが、どちらの目的も図書室に必要な資料を備えることです。
いたずらに時間はかけすぎず、でも丁寧に。ご利用者の声を聞きながら進めていきましょう。
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