
筋肉痛必須の果てしなき作業?
「蔵書点検」とは、書架にあるすべての資料と「所蔵していることになっている」蔵書データを突き合わせる作業です。いわば図書室の「棚卸し」、英語では、蔵書点検も棚卸しも同じ単語「inventory」で表します。会社の棚卸しは税法上義務づけられていますが、図書館法に規定はありません。ただし、公共の施設や学校では、資料が適正に購入・管理されているかどうかを把握するため、内規等で定期的な実施を定めていることが多いようです。
財政規則上の必要がない場合でも、蔵書点検作業は、意外な場所から行方不明本が出てくることもありますし、紛失資料を補充したり、配列の整備等、図書室の利便性を向上させる貴重な機会です。とはいえ、マンパワー不足に悩む図書室では、そう簡単に実施できない高い壁に思えるのではないでしょうか。
かつて「蔵書点検」は「曝書(ばくしょ)」とも呼ばれていました。「曝」とは「さらす」ことで、本の虫食いやカビを防ぐため、日光に当て風を通す作業です。
参考サイト
第5回 本を虫干しにする?お布団じゃないのに?~蔵書一斉点検~(札幌市の図書館)
図書室にコンピュータや管理システムが導入される前、蔵書点検はどのように行われていたのでしょうか。それはまさしく紙と人力だけが頼りでした。二人一組になって点検する書架に向かい、一人は目録カードが納められたボックスを持って書名や請求番号を読み上げ、もう一人が現物を探して確認、の果てしない繰り返し。いまも作業後はけっこうな筋肉痛に見舞われるのですが、当時は比べものにならないくらいの重労働だったようです。
参考資料
「曝書、蔵書点検、はたまた棚卸し」(佐藤サチ 別府大学・別府大学短期大学部司書課程 司書課程年報 2007-02
ハンディターミナルによる蔵書点検
コンピュータによる蔵書データ化と図書館管理システムの導入は、蔵書点検を大きく変えました。現在、もっとも多く行われているのは以下のような手順です。
- 蔵書点検用のハンディターミナル(データを蓄積できるスキャナー)を用意する
- ハンディターミナルで書架の資料に貼られているバーコードを1冊ずつすべて読み取る
- ハンディターミナルから図書管理システムへ読み取ったデータを流し込み、照合する
- 紛失本がリスト化されるので、捜索や補充を行う
資料を棚から引き出す→読み取る、という一連の作業は、人手とハンディターミナルの数を確保できれば、それだけ早く済みます。所要時間は、蔵書量が書籍で1~3万冊程度(※)、人手が2,3人確保できるようなら、読み取り作業自体は1日で完了可能だと思います。
※雑誌、大型資料等は、引き出しにくい・重いなど、書籍に比べて時間がかかります。
蔵書点検中、貸出等のサービスをどうするのかは悩ましい問題です。すべてを停止し、入室自体を禁止すれば作業の効率は良いですが、御利用者が不満に思うかもしれません。
① 作業しているスペースのみ立ち入り禁止、返却は点検終了後に行い、貸出した資料はすべてメモしておき照合時にすりあわせる
② 点検は部分的(分類ごとなど)に進め、その箇所だけ立ち入り禁止・貸出/返却停止とする
いずれも、全サービスを停止して一気に行う蔵書点検に比べれば、かなり煩雑です。
③ 利用者の少ない/いない時間(夜間や休日)に行う
御利用者への影響は小さくなりますが、スタッフは時間外労働する必要があります。費用が許せば、外注(蔵書点検代行業者への委託)を検討したほうが良いかもしれません。
蔵書点検をスムーズに実施するポイント
早めの告知と周知
蔵書点検の際、図書室スタッフのの頭を沸騰させるのは「図書室はお休みで(ラクできて)いいねぇ」という御利用者の言葉です。一日中本を引き出してはスキャナーで読み取って、あんなに働いたのに!と、肉体労働で疲れた身体と心が折れないよう、
- 利用できない期間を最短に
- 繁忙期に重ならないよう時期を調整
等、御利用者に配慮していることを早めに告知し、通常業務を止めてまでなぜ作業を行うのか、蔵書点検の目的(紛失本の把握と補充、書架整理で利便性を向上)をアピールしましょう。
人手とハンディターミナルの確保
人手とハンディターミナルを確保できれば、それだけ作業が早く済みます。読み取りは単純作業ですので、臨時のアルバイトや他部署の応援を頼めるなら、ぜひ活用しましょう。さらに大事なのは、図書システム会社の担当者との調整です。作業開始前にはハンディターミナルが確実に揃っており、逆に、すべてのデータ読み取りが終了したらただちに不明本のリストを出力するなど、連携作業が欠かせません。
LXでは可能な限りご要望にお応えしておりますが、蔵書点検時期が重なってしまうなど、ハンディターミナルのご用意が難しいこともあります。年間のスケジュールを策定される際、蔵書点検の実施時期をお知らせいただけますと、確実に対応できます。
日常作業の心がけ
単純なことですが、バーコードが読み取りやすい一定の場所に貼ってあるだけで効率が違います。また、書架に資料がギチギチに詰め込まれていると、本を引き出す・戻す作業が目に見えてはかどりません。
書架整理(分類番号順の配列チェック、配架量の調整等)を利用を止める前に完了できていたら、閉室の期間をそれだけ短くできます。
また、蔵書点検は書架清掃の良い機会です。単にきれいにするだけでなく、埃の溜まっている箇所の資料はなぜ利用されないのか、蔵書が増えて窮屈になっている書架はないか、図書室のレイアウトを検討する参考になるでしょう。
これからの蔵書点検
バーコード読み取り式は、蔵書点検を飛躍的に省力化しましたが、資料を1冊ずつ書架から引き出し、ハンディターミナルを当てて読み取る作業には、相応に時間がかかります。そのため、規模の大きな公共図書館等では、一週間~十日間程度、休館期間を設けるところが多いようです。
が最近では、資料の管理に、バーコードではなくICタグを導入する図書館も増えてきました。ICタグを装備した資料の場合、貸出(返却)は、複数冊をまとめて読み取り台の上に置くだけで一気に処理でき、バーコードのように一冊一冊スキャンする必要がありません。利便性は高いものの費用の問題が大きかったのですが、近年、ICタグの低価格化が進み、利用は広がっています。そしてICタグによって、蔵書点検はさらに省力化されました。専用のアンテナを棚に向けたり、または棚に差し込めば、数冊から十数冊の情報が処理されます。ついに、一冊ずつ辛抱強く、地道に本を引き出す作業は過去のものになったのです。
さらにいえば、そもそも資料にICタグを装備したり、アンテナを書架に向けるのは、やはり人力頼みでした。いま蔵書点検は、ドローンやロボットで撮影した書架の画像をAIが認識してISBNを割り出し、それを蔵書データと照合、というレベルまで進んでいこうとしています。終業前にセットしておけば、次の日の出勤時には不明本リストができている、夢のような話に思えますが、そう遠くない将来、蔵書点検は完全無人化され、筋肉痛なんて昔話になるのかもしれません。
参考情報
AIとドローンで図書館の蔵書点検 千葉県船橋市 日本経済新聞 2020年3月12日 AI蔵書点検サポートサービス実証実験の成果と課題 カレントアウェアネス-E No.412 2021.05.13
看護と情報:日本看護図書館協会会誌 「特集 蔵書点検再考」2023 年30巻
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