なぜこれが?という検索結果を回避するために

件名は英語でsubject、「メールの題名」というイメージを持たれるかもしれませんが、図書館の用語では「検索する際の手がかりとして、資料の主題を簡潔な言葉で表したもの」を指します。

どのように利用するのでしょうか。

たとえば、タイ国内の政治動静について調べているとします。国会図書館サイトのフリーワード検索に「タイ 政情」とキーワードを入れると、図書だけで1,200件以上ヒットしました。中身を見ていくと、「タイ 2022/23年版 (ARCレポート)」のように役に立ちそうな資料と、「自治体職員のための行政情報システム入門 : 変化に対応(タイオウ)できる行政情報システムを次世代に残すには」といった、検索の目的とはまったく関係ない資料が混在しています。

検索語を「タイ」だけにするとこの傾向はさらに激しくなり、「いたいのいたいのとんでいけ (はじめましてのえほん)」「いまだから伝えたい、考えたい「牛乳」のはなし」等々、ヒット数は図書だけで100万件を超えてしまいました。

ここで役に立つのが「件名」による検索です。

検索方法としては、フリーワードではなく「詳細検索」を選択し、件名の欄に「タイ」と入れることで、該当数は約22.8万件まで絞れました。ただしこの段階では「阪神タイガース」も「パートタイム労働」もまだ含まれているのですが、小規模な図書室なら、だいぶ目的に近づけるでしょう。ネット検索では、いったいどうしてこんなサイトが大量にヒットするんだろう?とうんざりすることも多いと思いますが、件名はそういった無駄を排除する手助けとなります。

件名と統制(コントロール)

件名は「資料の主題を表すキーワード」ですから、見当違いの結果を省くことができ、検索する側にとってはたいへん便利なのですが、自動的に付与されるものではありません。SNSの投稿を多くの人に見てもらおうとしたり、また、同じ趣味やトレンドをまとめてチェックしたい場合に活用されるのが「#(ハッシュタグ)」ですが、付与しているのは発信者自身です。図書室の資料では、データの作成者が「何について述べているのか」を判断し、分かりやすく付ける必要があります。

外部リンク参考サイト

少人数のスタッフで運営する企業等の図書室では、そこまで詳細に管理するのは難しいかもしれませんので、

  • 過去に同様の件名はないか検索する習慣をつける
  • 定期的に件名のデータを抽出して、同じ内容なのに違う言葉を使っていないかどうか確認する

等の作業を怠らないことが大切です。
利用者側からの視点も必要で、LXでは検索実績(利用者は具体的にどんな言葉で検索しているか)がデータとして表れますので、こちらも定期的にチェックして、参考にするとよいでしょう。

実際の作業のヒント

  • 地名のばらつきを阻止する

    タイだけでなく、イギリスやアメリカも、資料によっては「イングランド」「英国」「米国」「USA」等々、さまざまな表現が存在しますので、「イギリス(イングランド; 英国)」と、想定される検索語のバリエーションに対応できるよう工夫します。また、「鎌倉」のように地名、歴史、両方の可能性がある言葉の場合には「鎌倉市」「鎌倉時代」と識別し、必要に応じてさらに「史跡」「観光」等を付け加えます。

  • カタカナ語に注意

    「ー」(長音 伸ばす記号)を含む言葉には注意が必要です。

    「リース業界」について調べようとして、単純に「リース」だけでフリーワード検索すると、「フリースクール」「バックカントリースキー」等、関係ない資料が数多くヒットしてしまいます。件名に「リース業界」「リース(金融)」等を設定しておけば、関係ない検索結果を相当減らすことができます。「カート」(スカート、『ストーカーとの七〇〇日戦争』等)「ニート」(『アントニーとクレオパトラ』)等、他の言葉と混同されやすい、長音が次の言葉と結びつきやすい言葉には、それぞれ「カート(会計機能)」「ニート(Not in Education, Employment or Trainingの略 若年層非労働者)」等、意味が分かるように付記する工夫が考えられます。カタカナ語はアルファベットで略して表記されることも多いですが、正確な綴りや読み、意味(「CS[Customer satisfaction]:シーエス 顧客満足度)、EC [Electronic Commerce]:イーシー 電子商取引 ネット通販)を件名に付記すれば、理解の手助けになるでしょう。

  • タイトルにテーマは含まれているか

    『四千万歩の男』は、江戸時代に日本地図を完成させた伊能忠敬を主人公とする井上ひさしの小説ですが、タイトルに「伊能忠敬」の表記はありません。小説ですが資料として有用と判断するなら、件名に「伊能忠敬」「地図」等を入れて、ヒットしやすくします。

    『こんな夜更けにバナナかよ』は、施設ではなく自立生活を選んだ難病患者とその周辺のボランティア群像を描いたノンフィクションで、その後映画化もされました。が、タイトルだけでは、そんな内容は想像もつかないのではないでしょうか(サブタイトルには含まれています)。国会図書館のデータを検索すると、件名は「鹿野, 靖明」(※主人公名)「身体障害者福祉」「進行性筋萎縮症」とあり、作品名を知らなくても、病名や内容からたどり着きやすく設定されているのが分かります。

    そのほか『欲望の鏡 : つくられた「魅力」と「理想」』のように、言葉だけの印象では受け取る人によって差が出るかもしれないタイトルの場合にも、「では、具体的には何が書かれているのか」(国会図書館の件名は「人体美-歴史」)を示すことが出来れば、検索や理解に役立ちます。

いずれの場合も、資料が何について書かれているか、検索語にどんなバリエーションがあり得るか、対象の資料をよく知ること、利用者の立場から考えることが常に重要です。

件名はいくつまで付けてよいのか

件名の役割は資料の主題を簡潔に表すことですので、特に決まりはありませんが、一般的な図書館では、テーマが相当多岐にわたっていない限り、付与される件名は1,2個です。ただし、専門的な資料を多く集めている場合には、ほんの1,2ページの記述でも、他の資料では見つからない貴重な箇所があるかもしれません。少し細かい話になりますが、学校図書館では、「1p以上の記述があれば採用」「最大99件まで付与できる」学習件名が採用されています。

外部リンク参考サイト

児童向けの決まりごとではありますが、細かな調べものが多い企業等の図書室では、参考になる方針ではないでしょうか。
検索システムにデータをどれくらい取り込んでいるかも、件名の採用数に関わってきます。内容の概略や目次まで詳細に入れているようなら、検索ヒット数は自ずと多くなるでしょうから、件名をできるだけ絞り込んだほうが調査の効率は上がります。逆に、データがタイトル、著者名、出版社名程度で、具体的な内容に触れる情報まで入っていない場合には、一部分にしか記載のない項目も件名として積極的に取り入れることで、取りこぼしを防ぐことができます。

件名は使ってもらわなければ意味がない

とはいえ、たいていの利用者はフリーワード検索だけで済ませてしまうかもしれません。せっかく苦心してつけた件名を活用してもらうためには、周知と工夫が必要になります。

  • 検索のコツ(フリーワード検索と件名検索では精度が違うこと)をマニュアル化する
  • 件名の一覧表を作成し、紛らわしい言葉(「本」「図書」「書籍」のように)をどのように統一しているかをアピール。ひと手間かけて、それらは実際に図書室のどこを探せばよいかかも表示できればさらに便利です

「件名」という表現がどうも分かりにくい、ということであれば、「キーワード」や「ハッシュタグ」的な働きをする言葉、と言い換えると良いかもしれません。

利用者から「〇〇についての本はないですか」と問い合わせがあったときに、件名検索で、タイトルからは想像できないような資料からぴったりの箇所を提示できれば、おそらく一番効果があるでしょう。件名の付与は、利用者はどんな言葉で何を探す可能性があるかを考えながら、資料の内容を的確に判断してもっともふさわしい言葉に置き換える、専門性の高い作業です。「どうして(そんな簡単に)見つかったんですか?」と驚いてもらえるよう、整備を進めていきましょう。

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