図書館ノウハウ

図書室を放置すると何が起きるか

専任担当者を置けない図書室を放置するとどうなるか?新陳代謝の停滞、複本の増加、延滞・汚損の放置、寄贈本の増殖など、管理不在が招く具体的なリスクと、利用され続ける図書室であるための心構えを解説します。

図書室の規模によっては、専任のスタッフを置く余裕がないことも多いでしょう。業務の繁忙期には、どうしても図書室の管理が「後回し」になるかもしれません。専任者がいたとしても、何らかの事情で長期離脱を余儀なくされたり、「対費用効果」の掛け声の下、図書室に関わるあれやこれやが削減されてしまったり。管理できていない状態で放置された図書室には、何が起こるでしょうか。

新陳代謝が止まった図書室

「図書室を作ろう!」とプロジェクトを開始し、外部の図書館システム関係者や有能な経験者が熱心に取り組み、組織の目的に沿った有用な図書室が立ち上がりました。しかし残念ながら熱意がそこで途絶えてしまい、専任の担当者は置かず、新しく入ってくるのは雑誌くらい。。。もしそんなことが起きてしまったら、どうなるでしょうか。

その図書室には、当初揃えた業務に関する基本的な書籍は揃っているのですが、それは最新の情報でしょうか。必須のツールとされる資料でも、世の中の動きに伴って改訂されているかもしれません。たとえば、「会社法実務の必携書」(有斐閣サイトより)とされる『株式会社法』(江頭憲治郎著 有斐閣)は、2006年に刊行されましたが、2024年刊行の最新版は第9版です(前身の『株式会社・有限会社法』から数えれば、20数年で13回の改訂)。そんなに頻繁に?と思うかもしれませんが、2~3年前を思えば、社会情勢も法律も規制も、驚くほど変化しています。取引先と話していて「どうもおかしい」と思ったら、自分の資料の方が古い版だった、そんなことが起こったら、図書室に対する信頼は失せてしまうでしょう。

そこまで極端な例でなくても、新刊を購入する一方、古い資料を整理する、といった新陳代謝が行われない場合、「いつ行っても資料が変わり映えしない」「古い本ばかり」という印象を与えてしまい、利用者の足が遠のく原因となります。

本や雑誌といった紙の資料だけでなく、電子書籍やデータベースも、PCやネットワークの変化はまさに「秒進分歩」です。管理者不在で、ログイン方法やサイトのURLの変更等の周知はもちろん、機能のアップデートや利用方法について、適切なガイダンスができるでしょうか。放置が続けば最後には存在すら忘れさられ、費用だけは払い続けるという無駄遣い状況に陥りかねません。

「どんどん希望に応える」のは正解か

何が有用かいちばん分かっているのは現場の人間だから、という理由で「必要な資料があったら、個人の判断で買ってきてください」と任せている図書室があったとします。担当者は総務や経理部門と兼任で、資料と請求書が届いたら支払いの手続きをし、Excelに簡潔なデータを入力して、書架に置くだけ。現場の忙しいスタッフは欲しい資料がすぐ入手できて喜ぶでしょうし、事務作業は最小限で、一見、効率的な手続きに見えます。しかし、時が経てば書架にはあっちの部署でもこっちの部署からも買ってきた『株式会社法』が何冊も並ぶことになり、そこへまた新しい版が出て同じことを繰り返し、「図書室には、なんだか似たような資料しかない」という、評価の低下につながります。公共図書館がリクエストに応えようとベストセラーばかり購入してしまうのと同じ現象です。複本を揃えるのは需要に応じて不可避なこともありますが、大事なのは管理と新陳代謝で、購入の要望があったら類書の有無を確認する、新版を購入したら古い版を適宜処分するのは最低限必要な業務です。

声の大きい人の希望ほど通りやすい、という面も見逃せません。熱心な利用者がいて、特定の分野のエキスパートだったりすると、「〇〇さんのおすすめだから」と歯止めなく購入してしまう。もしそうなったら、その分野に関係ない利用者は「なぜかここだけ結構高額な書籍までズラズラと並んでいるけれど、自分の業務にすぐ役立つような、気の利いた資料はあまりないなあ」と感じてしまうかもしれません。どんなに貴重な資料でも、組織として役に立たなければ、図書費用の無駄遣いです。そうならないために、全体を見通して予算を配分し、資料を購入するのが管理者の仕事であり、利用者の需要を的確に判断することが、限られた費用の有効活用につながります。

無法地帯の図書室

資料の延滞、紛失、汚損等は、図書室ではつきもののトラブルです。スタッフが常駐している図書室なら、日々、資料が期日内に返却されているかどうかに目を光らせ、返却された資料に異常はないかを確認し、分類順に書架へ戻す作業を繰り返しているのですが、それを怠った、もしくはすべて利用者のセルフサービスにした場合、何が起こるでしょうか。

「いちばん見たい資料はいつも貸出中」

「ラインマーカーが引かれていたり、書き込みがあったり」

「付録の図表が切り取られていた」

「そもそもどこにあるか分からない(あるべき書架にない)」

どんなに有用な資料を揃えても、それがタイミングよく適切な状態で提供できなければ、やはり図書室の信頼は失墜します。「結局、自分で買ったほうが早い」「会社は何もしてくれない」という不満が溜まってしまうかもしれません。延滞資料を「返してください」とお願いしたら、「いまプロジェクトでどうしても必要だから!状況が分かってない!」などと逆ギレされたりすることもあるのですが、その資料を多くの利用者が待っていることを丁寧に説明し、例外的には複本を用意したり、管理者ならでは仕事が要求されます。長期延滞を繰り返したり、不注意で資料を汚損してしまった利用者への注意やペナルティも時には行わなければならないですし、逆に、紛失本の捜索にこだわりすぎ、必要な時に提供できなかったら、それも問題です。

資料を分類順に棚へ戻すのは、はた目には残念ながら専門性を評価してもらえないような、ほんとうに地道な作業なのですが、図書室内で求める情報へアクセスする機会を増やすためには、同じ主題の資料が近い場所になければなりません。利用者がみな「この辺が空いているから」と適当に戻してしまったら、その道は絶たれてしまうのです。自分の本棚なら「何がどこにあるのか、自分が分かっていればOK」なのですが、図書室では「誰が見ても分かりやすいルール(分類順)」で適正な場所に資料を置いていなければ、求める情報は迷子になったままです。

電子書籍やデータベースも同じで、契約はしたけれど「適宜ご利用ください」と放置していたら、利用は広がるでしょうか。急な需要でアクセスしようとしたらログインできなかった、上手く操作できなかった、などという場面に遭遇した利用者は、「便利だって聞いていたのに。。。」と投げ出してしまうかもしれません。どんな場面に有用か、利用方法のコツや注意点、さらにシステムメンテナンスなどの情報を、組織全体に辛抱強く、日々適切に周知し、「(このツールで)何が出来るか」を知ってもらう。その積み重ねから利用者に「あって良かった!」「ほんとに便利!」と感じてもらえたら、図書室への信頼感アップにつながるでしょう。

図書室はゴミ箱じゃない!

特に蔵書数がまだまだ少ない図書室の場合、利用者のご好意から寄贈が寄せらせることもあります。有難いものももちろん多いのですが、寄贈者が「(自分は新しい版に買い替えて不要だから)図書室にあげる」のか、それとも「(良い資料なので)図書室で共用すべき」と考えているのか、見極めが必要です。たとえ良かれと思っての寄贈でも、「不要だから」が理由の場合、古い資料が増殖して書架を圧迫することになりかねません。寄贈を受ける際には、必要性は図書室側で判断すること、処分(場合によっては廃棄)は任せてもらうことを事前に説明しなければなりませんが、そのためには、管理者の判断に信頼が寄せられていることが必須です。「せっかくの寄贈本を捨てられてしまった、担当者は分かっていない」とそれまで好意的だった寄贈者に思われてしまったら、図書室の利用者はまた一人減ってしまうでしょう。図書室は「余った本を置いておく」ところではないのですが、それを理解してもらうには、やはり選書方針の明示や書架の有効活用等、日々管理している姿勢を見せ続けなければなりません。

困ったときには図書室へ足が向くようにするために

組織として、いちばん「もったいない」のは、図書室はあるけれど活用されていない状態です。本や雑誌はあるけどなんか古くさい、電子書籍やデータベースは便利って聞いたけど、よく分からないから使っていない。平成はおろか昭和の書物が並んで埃をかぶっている薄暗い倉庫のような図書室、逆に、西日がガンガン差し込んで、背表紙の文字が真っ白く日焼けしてしまっている図書室、いずれも極端なたとえですが、「図書室?ああ、そんなのあったよね」と思われてしまっているようでは、少なくない金額を費やして設置しても、存在価値は著しく低くなります。1冊1万円の資料は、誰からも利用されなければ単なる高い買い物ですが、100人が活用したら一人あたり100円の経費で大きな利益に結びつくかもしれません。図書室の対費用効果は上げるためにはどうしたら良いか。仕事にいきづまったら図書室へ行けば何かヒントがある、図書室があって助かった!と一人でも多くの利用者に感じてもらうにはどうしたらよいか。正解はもちろん一つだけではないでしょう。たとえ専任のスタッフを置けなくても、組織として「誰のため」「何のため」図書室が存在するのかを常に考え、資料の選定・購入から始まって、書架を整理したり、延滞資料を督促したり、地味ですが継続的な努力と管理が欠かせないのです。

図書室の仕事は、資料と利用者をつなぐこと。
LXは、その役割を無理なく続けるための「道具」です。
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